年末お遍路



新たな旅を始めた。年末に四国にお遍路巡りをすることにしたのだ。仕事が終わり、変える実家もない僕は年末年始は一人孤独を感じていた。その孤独を少しでも紛らわそうと、旅に行くことにしたのだ。

職場の意向で、12月27日に仕事をある程度片付け、28日は少し掃除をして午後2時には終了した。そこから大阪駅まで行き、青春18きっぷを使って四国に行く。

行き先はお遍路が始める徳島駅である。地理的には、神戸から淡路島を通レバ近いのだが、青春18きっぷで乗れるJRの列車が通っておらず岡山から高松を通って徳島に行かなくてはならない。早めに大阪を出たのだが、高松から徳島への接続が悪く、結局徳島に到着したのは夜の11時半頃になった。そこから歩いて20分ほどのところにあるホテルへ向かう。3日間で1万円という安さのホテルだが、値段相応のホテルであった。ユニットバスは狭く、何故か風呂の水を抜くと、水が漏れトイレ側の床がびしょびしょになる。Wifiは使えるが、非常に遅く何もできない。テレビはNHK以外チャンネルを変えることができなかった。

今回のお遍路は、なるべく公共の交通機関を使って行くことにした。歩いてのお遍路だと完了するのに時間がかかり、車でのお遍路だとあまり意味がない気がした。徳島に到着したのが遅かったせいで、次の日は少し寝坊した。9時にホテルを出て駅に向かう途中に喫茶店がありそこでモーニングを食べた。テーブルは麻雀のゲーム台が使われており、数人のおじさんが競馬の話をしていた。



パンとゆで卵とコーヒーを食べ、駅に向かい坂東行きのきっぷを買う。徳島はまだICカードが使えず、自動改札もない。駅員にきっぷを私スタンプを押してもらうときに坂東行きの列車はどれに乗ればいいかを聞いた。するとあと1時間以上待たなければならないという。結局10時まで待ち、坂東までついたときには10時半になっていた。

坂東から1番札所の霊仙寺へは歩いて15分ほど。駅前にはお遍路タクシーというタクシーがあった。タクシーで88箇所を巡る人というのがいるのだろうか。果たしてそこまでしてお遍路をする必要はあるのだろうかと疑問に思いながら霊仙寺に到着した。道中も寺も、人はほとんどいない。白い装束を着ている人が2人ほどいるが、あとは全くの静寂である。



霊仙寺へお参りをすませ、次の極楽寺へ向かう。なんとも素晴らしい名前である。歩いて1.5kmほどと、ちょうどいい距離だ。極楽寺も相変わらず人が少ない。



極楽寺から今泉寺へはバスで向かう。歩ける距離だと思うが、今後も長く歩かなくてはならないことがあると思うので、できるだけバスを使うことにした。板野駅南で降り、今泉寺にお参りをしてまた板野駅南のバス停に戻り、大日寺方面のバスに乗る。距離はそこまで大したことはないはずだが、いつまでも大日時前には着かない。どうやら僕が気づかないうちに乗り越してしまったらしく、東原で降りることにする。そこは第六番札所である安楽寺に近い場所ななので、6番から4番までは逆打ちで行くことにした。



お遍路の道というのは、はっきりとした道標があるわけではない。坂東から霊仙寺までは緑色の線で導かれていたが、そこからはなんとなくボランティアの人か自治体の人が作った道標がところどころあるだけなのだ。しかも僕は公共の交通機関を使ってのお遍路なので、いわゆる歩いて回る正規のルートではない。スマホもカーナビも持っておらず、もちろん土地勘もないので迷う確率が高い。人に頻繁に聞こうと思うがそもそもすれ違う人自体が少ないのだ。なんとか、安楽寺は到着することができ、そこから歩いて4番まで戻る。安楽寺の隣にある休憩所でコーヒーを飲み、ストーブにあたって体を温めた後に地蔵寺方面へあるき出した。

5番札所の地蔵時には、四国唯一の五百羅漢がある。入場料が二百円ほどかかるらしいが、入ってみた。入り口前に小さな小屋があり、誰もいないのではないかと思うほど静かだったが中におじさんがいてそこでお金を払って中に入った。中はもちろん僕しかいない。コの字型になっている廊下に沿って像がところ狭しと並べられている。西日がスリットのように入っていて、像を照らしている。



五百羅漢を見終え、4番札所の大日時に向かう。朝飯以来食っていないので腹が減った。途中ぽつりぽつりと飲食店があるのだが、どれもうどん屋である。うどんを食べる気分ではなかったので、うどんや以外の飲食店があればいいと思っていたが、現れてくるものはすべてうどん屋なので、堪忍して大仙食堂といううどん屋でカツとおにぎりを食べた。客は僕しかおらず、広い店内にはラジオの音が響いていた。



時間的にこの大日時が初日の最後である。到着したのは午後4時頃になり、日が傾き始めている。外国語をしゃべるアジア人の家族がいたが、不安になるほど静かな寺であった。その寺から少し下ると徳島駅に行くバス停があり、そこで徳島駅に戻る。駅近くの居酒屋で寿司と唐揚げを食べ、ホテルに戻った。本当は明日のお遍路を中止し、徳島市でのんびりしようかとも考えたが、こんなことで弱音をはいていては決して終わることがないと思い、とりあえず10番まではこの旅で廻ることにした。



次の日は前日の反省を活かし、列車が出発する時間を調べておいた。早めに寝たので早朝に起きてしまい、朝7時台の列車に乗ることができた。板野まで行き、そこからバスでまた東原へ向かう。昨日巡礼した安楽寺を通り過ぎ、7番札所の十楽寺へ向かった。朝だからだろうか、昨日よりもお参りに来ている人は多い気がする。と言っても数えるほどしかいないのだけど。



今回のお遍路はなるべく公共の交通機関を使うことにしている。しかし、今回巡礼する7番から10までの札所は、バスも電車もなく結局歩かなくてはならない。次の札所まで4kmほど離れているところもあるから覚悟して歩かなければならない。

十楽寺に行く途中に熊野神社という神社がある。相変わらずここも人がいないが、わりかし立派な神社なので、おそらく初詣のときには多くの人が訪れるだろう。嵐の前の静けさのような雰囲気だった。せっかく巡礼をしているのだからと、その神社にもお参りをして十楽寺へ向かった。

十楽寺から次の熊谷寺までは歩いて4km。さらに熊谷寺から法輪寺までは3km。朝の時点で足は筋肉痛だったが、歩いているうちに慣れてきた。法輪寺の前にモチを売る店があったので、そこで草餅一つを買うことにした。おばさんが、車なのかと聞き、僕が歩きだというと、歩きの人にはサービスしてくれるらしく、草餅を2つくれた。別れ際におばさんが今日は11番までだねと言ってくれたが、11番まで行く元気は僕にはもうない。

実際にお遍路をして思ったのだが、もしかすると今は車で廻る人のほうが多いのかもしれない。この度で何回か道を聞いたが、すべての人は車であることを前提に道を聞いてくる。5kmというのは車だとわずか10分程度で着くが歩くと1時間以上はかかる。車を選ぶのも無理はない。しかし僕は車でのお遍路をあまり魅力的には感じない。タクシーで廻るなどもってのほかだ。それでいて電車やバスはOKという自分の価値観が自分でもよくわからない。

草餅を食べながら歩く。中のあんこが甘くてうまい。道中、前に夫婦が歩いていた。この旅で歩いて巡礼している人を見たのは初めてである。つかず離れずの距離で後ろからその夫婦の背中を見て歩く。この日の道中は殆どが平坦な道だが、最後の切幡寺は333段の階段を登っていかなくてはならない。その前から急な傾斜を登っていき途中から階段が出てくる。100段ほど登ったあとで急に腹が痛くなり、しばらく休憩して本堂に到着した。

本堂には鐘があり、そこで二回鐘を着いた。これで今年の煩悩はおそらく取れただろう。さらに上に宝物館があり、そこまで登って残りの草餅を食べた。

本日というか今回のお遍路はこれで終了である。早めに出たので切幡寺に到着した時点でまだ昼の12時。ここから徳島駅に帰ればのんびりできると思っていたがそうは行かなかった。まず、切幡寺から最寄りのバス停まで5kmほどある。ただバス停に行くために5kmの道のりを歩くというのは退屈である。それだけでなく、2時間あるけどもバス停は見えてこない。

流石に道を間違えたと思い、あたりを見渡すが、人気が全くない。とにかく人がいる道に出ようと、たまに通る車が向かう先を目指して歩いていくと、県道にでた。コンビニがあり、そこでおにぎりを買い、店員に近くのバス停を聞くとそこから歩いて15分ほどのところにあるという。しかもそれは直接徳島駅に行くのだそうだ。もう乗り換える元気もないのでそれは助かる。店員は、田舎なので一時間に一本ほどしかないと忠告したがそれは想定内である。一時間ぐらいの待ちであれば耐えられる。しかし、いざバス停に行ってみるとなんと徳島駅のバスは一日に4本しかなく、次のバスは16:27に来る。その時点で時刻は2時。2時間以上もまたなくてはならない。途方に暮れたが、そのコンビニとバス停の間に大きなスーパーがあり、立派な休憩所があった。そのスーパーでさつまいもを買って食べながら2時間ほどそのスーパーで待機した。あのバスを逃すと、もう徳島駅行きのバスはないので30分前にはバス停に到着するようにスーパーを出発した。ほぼ定刻にバスは到着したが僕の体は冷え切っていた。

ようやく徳島駅に戻り、僕の旅は常に貧乏旅行であり、今回の旅もホテル代を除いて1万円で済ます予定だった。交通費などがかかり、徳島駅に着いた時点で2000円しかない。飯が食えないこともないが、せっかく徳島まで来て自分が決めたルールに縛られるのは良くないと思い、コンビニで5000円おろした。その足でホテルでおすすめされた「とくちゃん」という居酒屋に行く。実は昨日も寄ったのだが、人がいっぱいで断られたのだ。しかしその日は一階には誰も人がおらずカウンターに座ることができた。僕は酒を飲まず、僕の体はまだ冷えているので温かいお茶を頼み、そこから飯を頼んだ。焼き鳥、刺し身、和牛のたたき、豆腐、フィッシュカツなどを頼むとちょうど5000円になってしまった。少し食べすぎたようだ。


飯を食い終わってもまだ19時だ。ネットによると夜九時まで阿波おどり会館というところが開いているということなので歩いていってみたが、結局しまっていた。温泉か銭湯でも入ろうと思い、観光案内所に聞いてみたが、愛想の悪い人にあたってしまったので、腹を立てもうホテルに戻ってしまった。ホテルにある非常に小さい湯船に浸かって、もう8時には寝てしまったと思う。

最終日は朝からもう経つ。このホテルは決しておすすめはしないが、このホテルでもちゃんと働いている人がおり、掃除をしてくれる人がいると思うとあまり悪いことは言えない。徳島駅近くにあらから開いているうどん屋があり、そこでちらし寿司と天ぷらと、そば米うどんという徳島の名物料理のようなうどんがあったのでそれを頼んだ。値段は1000円ほどになり、明らかに頼みすぎた。



列車の出発まであと15分しかないので味わう暇もなく口に入れた。この列車を逃すと接続の関係で大阪に到着するのが3時間ほども遅くなってしまう。あまりに満腹なので走れなかったが、そこまで焦る必要なく出発時間の10分前には到着できた。そこから鈍行を乗り継ぎ、大阪駅に到着した。