実家へ帰る その4:比婆山の民宿に泊まる

広島から備後落合という秘境駅に向かう。まず、下深川という駅でおり、そこからバスで三次(みよし)駅へ向かう。2018年の夏に起きた豪雨の影響でその区間はまだ電車が通っていないらしいのだ。三次駅に着き、一時間ほど時間があったので駅の近くにあるくむ商店というところでお好み焼きを食べた。実は12月にも同じルートを旅したときに、くむ商店に行った。その時は駅の周りの何処かで昼飯を食べる予定だったが、周りにほとんど何もないので仕方なくくむ商店で食べることにしたのだ。駅に隣接している飲食店はあまり大したことないという先入観があるので、本当はあまり行きたくなかったのだが、入ってみると賑わっており、お好み焼きも美味しかった。広島に住む友人もその商店のことを知っており、車でわざわざ食べに行くほど人気な店だということがわかった。

今回もそのくむ商店で食べる。辛麺焼と呼ばれる、ピリ辛の麺が入っているお好み焼きは広島の鉄板焼きの大会で優勝したこともあるらしい。人気なはずだ。僕はその辛麺焼を頼んだ。辛麺焼と行っても昨今の本格的に辛い食べ物に比べるとマイルドなピリ辛で美味しい。しかし、ゆっくり味わって食べていると列車の時間に間に合わなくなるので、半分だけ食べ、あとは持ち帰ることにした。

三次から備後落合までの列車は1両のディーゼル車だ。一日に3本程度しか走っておらず、乗客も電車好きな人がほとんどで、生活のために使っている人はあまりいない。持ち帰ったお好み焼きを温かいうちに食べたいが、車両内で食べるには匂いが気になっていた。しかし、乗客5人のうち2人ほど牛丼屋うどんを食べていたので僕もそこでお好み焼きを食べながら備後落合へ向かう。

備後落合まで一時間半ほどかかるが、居眠りをしていたらいつの間にか着いてしまった。この駅は三線が落ち合う場所という意味で、一日に一回、二時半ほどのときに三線の列車が止まるのである。駅には元機関士であったおじさんが、駅に降りた乗客に向かって駅の説明をしている。このおじさんは前回ここに来たときも同じように説明をしており、そのときは多くの人が説明を聞いていた。しかし今日はあまり客が捕まらないらしく、一人に向かって一生懸命説明をしていた。他の人は秘境駅や列車の写真を撮っている。

僕がこの日泊まる民宿はここから8km離れている。まだ二時半で、歩いても暗くなる前には着くはずだ。この駅の近くにある道の駅で、「おでんうどん」というものを食べて歩こうと思ったが、前日に遅く寝たので疲労がたまり、木次線で油木という駅まで行くことにした。油木から民宿までは2kmほどである。まわりには道路以外何もない。歩くと民宿が見えてきたのだが、人の気配は全くない。玄関を開け、挨拶をすると奥からおじいさんが出てきた。どうやらここが民宿であっていたらしい。

部屋に通され、そこからお風呂を入れてくれた。4時にお風呂に入る。脱衣場にはストーブがつけられていた。あとから話を聞くと、通常であれば3月の終わりでも雪が積もっているほどさむいところであるらしい。

ここは比婆山温泉という名前になっているのだが、本当に温泉なのかどうかはわからない。食事が提供されるかどうか少し心配だったがちゃんと提供された。刺し身に肉と、旅館並の豪華な食事である。食堂にはもう一つ卓が用意されていたので、おそらく今日の宿泊者は僕を含め2人なのだろう。人里離れた民宿だが、休日は予約が取れないほどになるらしい。

ネットもないので布団に入りながらテレビを見ると、いつの間にか寝てしまっていた。次の日の朝、8時に朝食を食べ、再び油木駅に向かう。そのおじさんが車で油木まで連れてってくれた。この地域はもうすっかり人が少なくなったと、少し寂しそうに言った。

油木駅というのは無人駅中の無人駅だ。近くに簡易郵便局はあるがそれ以外は全く人気がない。もし列車が来なかったらどうしようと少し心配にもなったが、ちゃんと定刻に列車はきた。青春18きっぷにスタンプを押してもらうと思ったが車掌兼運転手はスタンプを持っていないので、一応整理券をもらって列車に乗った。

そこからアナウンスが入る。ここから先は西日本で一番標高が高い〇〇という駅、そして運転手が運転席を移動しながら、ジグザグに進むスイッチバッグの場所がある。駅にはカメラを持った少年やおじさんがおり、列車好きには有名な場所なのである。しかし、その場所をすぎるとあとはひたすら中国山地を下ることになる。車内も居眠りをする人が多くなり、静かに木次駅に到着した。

同じ車両でマル道までいくということだが、40分ほど時間があるので、近くにあったスーパーで惣菜のピザを買い、フードコートで食べた。フードコートは孫にラーメンを食べさせているお婆ちゃんなどがおり、素朴で幸せそうな光景だ。列車に乗り、今度は米子で一旦降り、倉吉に向かう。

続く・・・