続けることの大切さ

イチローは日米で通算4367安打を打った野球選手だ。単純な比較はできないかもしれないが、日本のプロ野球界で最もヒットを多く打っている張本勲氏が3085安打だからいかにイチローのヒット数が飛び抜けているかがわかる。そのイチローがこんな名言を残している。

小さなことを多く重ねることが、とんでもないところに行くただ一つの道

イチローは野球界の歴史でも最も優れたプレイヤーの一人である。しかし、大切なことはイチローの偉業は、彼がプロ野球選手で「あり続けた」から達成されたものである。彼は1992年から2019年まで、27年以上もプロ野球選手であり続けたのである。プロ野球選手の平均在籍期間が8年程度であると考えるとその3倍以上も選手であり続けたのだ。もちろん彼は毎年最高のプレーをしている。年間安打数262安打という数字は、メジャーリーグの歴史で最も高い数字だ。しかし、たとえ10年間262安打を打ったとしても2620安打にしかならない。彼の偉業は続けられたからこそ成し遂げられたものだ。

しかし我々は明らかに、続けることを過小評価している。毎日腹筋5回を30日続けるよりも、週に一度30回腹筋をしたほうがすごいと思ってしまう。続けることを過小評価してしまうあまり、酒や煙草で致命傷を受けてしまう。

森博嗣氏は、非常に多作の作家である。彼の著作は350冊を超える。森博嗣氏の『集中力はいらない』(SB新書)には以下の記述がある。

 いずれにしても、毎日書きます。コンピュータのカレンダに、毎日何文字書くと記入して予定を決め、そのとおりに書きます。だいたい前倒しになりますが、決めた予定よりも遅れたことは一度もありません。親が死んで葬式の喪主をしなければならないとか、そんな事態に突然陥っても、予定を厳守しました。逆にいうと、それくらいゆるい予定を組むわけです。よほどのことがあっても、果たせるノルマを決めるということです

彼は多作ではあるが、だからといって特別な能力があるわけではない。たしかに彼はタイピングの速度は早いらしいが、人間である限りそんな驚くほど早いわけではない。ただ彼は、毎日毎日コンスタントに文章を書き続けるという、一見単純な作業を続けることにより作品を出し続けているのである。同じ作家という職業では、村上春樹氏も『うずまき猫のみつけかた』(村上朝日堂ジャーナル)でこのように書いている。

夜は大体十時に寝て、朝は六時に起きるし、毎日ランニングをして、一度も締め切りに遅れたことはない。

つまり、私達は偉人というのは徹夜をして、苦しんで作品を作っていると思いがちだが、実際は毎日コンスタントに仕事をしているだけなのだ。

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